2017.12.28
LPGAスペシャル 馬渕明子館長をたずねて③
<Photo:Ken Ishii/Getty Images>
事前に、打ち合わせをしていたわけではない。スポーツと文化の話を-。エンブレムから、リオネル・メッシ、葛飾北斎と次第に熱が帯びてくる。そして、バーンズ・コレクションへ。
小林「北斎とジャポニスムの企画展を、興味深く拝見しました。ありがとう存じます。記憶に残る展覧会になりました。そういえば、アメリカで鑑賞した、バーンズ・コレクションも強烈でしたね。現在のフィラデルフィア中心部へ移転する前、郊外のローワーメリオンへ鑑賞に行きまして。他の美術館とは、絵画の配置などが全く違う。一生の記憶に残る体験でした」
馬渕「左右対称ですね。同じ大きさの絵を、よくあれだけたくさん集めたと感心しました。絵画にあわせ、調度品や家具なども替える。バーンズさんには、もちろん、お会いしたことはありません。かなりクセのあるコレクターだったようですね」
小林「私は、ルノアールの色彩の変遷を、あの美術館で知りました。晩年はリューマチが悪化し、絵筆を手にしばりつけて描いたから、こうなった…。1点の絵画を鑑賞に行くのではなく、プラスアルファがあったことで、鮮烈な記憶に残っているのではないかと思います」
馬渕「バーンズさんは新薬を開発して、特許を取得。財を成した。そのお金でコレクションを増やし、美術館をつくった。一般には公開しません。でも、学生や自身の工場へ勤務する従業員などは、プログラムをつくり、鑑賞の機会をつくっています。教養を分け与えたとでもいうか。感性を養う手助けには積極的。とても教育熱心だった方らしい。ただし、美術批評家などにはNG」
小林「そうでしたか。事前予約をしたり、入場時間が決まっていたりなど、かなり手間がかかったのは、そのためですね」
馬渕「私も最初、訪れたときは、大学生のようにふるまって…。ノートをとっていたら、スタッフが何をしている? スケッチをとっているのでは? という感じでチェックをされてしまった。幸い、日本語でメモをしていたので、相手にもわからない。感想を書いています、と話しました。移転した現在は、すぐに鑑賞できますけどね」
小林「確か、バーンズ・コレクションは、こちら(国立西洋美術館)でも展覧会を開催しましたね。ニュースにもなって」
馬渕「西洋美術館の入場者レコードをつくりました。1994年、62日間で107万1352人のお客さまにご覧いただきました。混雑しているときは7時間待ちになったほど。これは極端な例です。ただ、今は上野のお山の美術館も、お客さまが増えました。文化として定着してほしい。そう、思わない日はありません」
小林「きょうも、行列ができていました。行列といえば、去年、生誕300年を記念し、この近くの東京都美術館で開催された伊藤若冲展。あまりの人の多さに断念したことを思い出しました」
馬渕「そうでしたね。夏場だったから、熱中症で体調不良などを訴える方もいらして…。私は、急に入場者が増えずに、じわじわと右肩上がりになっていくのがいい、と思います。もし、お客さまが足を運んでくださらなくなったら、それは大変なこと。国立の施設は、入場者の目標を定めることが必要です。当然、目標をクリアしなければいけない。かといって、万人が興味を引く展覧会ばかりを、というわけにもいきません。さまざまな企画を組み合わせる。結構、大変です。最終的には、5年間で上回ればオッケーでも、それは机上の計算でしかない」
小林「お客さまにいらしていただくことは、ただ来てください-ではすみません。2017年のツアーは秋シーズン、毎週末、台風が上陸して…。各トーナメント、無事にご帰宅できるのか、そこまで予測しなければならなかった。これだけ苦労した年もなかったのでは、と思います」
馬渕「女子サッカー、2018年は正念場です。19年のフランスワールドカップ予選がある。翌年は東京オリンピックも。メダルに届く-私は手応えがあります。20歳前後で才能ある選手が、たくさんいる。うまい、勤勉、よく走る。三拍子そろっています。それに、ひたむきですよ。観戦していると、よく伝わってくる。彼女たちの素晴らしさを、もっと多くの人に知ってほしい」
小林「女子ゴルフも若い選手がどんどん出てきて、活性化が進んでいます。2017年、LPGAツアーでは1億円プレーヤーが6人出ました。そういうお金の面がクローズアップされ、より魅力的に映るのでしょう」
馬渕「成功すれば、それぞれの収入がある。女子サッカーで代表的な選手は、アメリカのアレックス・モーガン。ピンクのヘアバンドがトレードマークのあの選手。年収が日本円で、約3億円と、アメリカ協会の関係者がおっしゃっていた。世界一ですね。一方、国内の女子は仕事をしながらプレーする選手が多い。たとえ、海外移籍しても急にスターへなれるわけではない。ということで、代表クラスは、協会が支援をしている。支援をしなくても生活ができるようになってほしい。今まで、興味がなかった、おじさん、おばさんまで引き付ける魅力がないと、生き残れない。必死です」
小林「お客さまが見てくださることで、選手は育ちます。私もツアーに育てていただきました。ギャラリーがたくさんいると、とにかくうれしい。力が出る。お客さまの前で、どこまでいいパフォーマンスができるか。そこが強い選手になるかのポイント。強い選手=お客さんが入るという相関関係です」
馬渕「選手の熱気が、お客さまへ届くかは、とても大事なことです。サッカーはピッチの周囲にトラックがない、専用スタジアムが増えている。やっぱり、迫力が違います。個人的な話をすれば、4000-5000人規模の小さなスタジアムが好き。なぜかというと、男子では骨と骨がぶつかる音まで聞こえてきます。もう、筆舌では表せないぐらいの…」
小林「それは知りませんでした。私は、巨大なカンプノウで、いきなり最高峰の試合を観戦。それでも、圧倒されっぱなし。馬渕館長、今度はツアーへぜひ、足をお運びください。目の前で観戦するゴルフも、静の迫力があります。クラブとボールが当たる瞬間、インパクトの音を聴いてください。ありがとうございました」
《馬渕館長は高校時代、女子がプレーするスポーツではない-といわれた、サッカーの経験があった。大学から派遣された体育教諭が授業の一環で行っていたそうだ。「楽しかった。でも、今のように普及していなかったから、みんながボールにワーッと集まってしまう」と苦笑する》
ちなみに、対談終了後も、メッシの話題がもうひとつ。
小林「メッシは試合中、さぼっているなぁ、と感じた。裏を返せば、とても効率がいい、ともいえますけどね」
馬渕「メッシは試合で足をつった、なんて見たことがないし、聞いたこともない」
=おわり
馬渕 明子(まぶち・あきこ) 1972年東京大学教養学部フランス科卒業。78年同大学院人文科学研究科美術史博士課程満期退学。独立行政法人国立美術館理事長、国立西洋美術館館長、美術史家、文化審議会委員。2014年3月、日本サッカー協会副会長に就任。2015年4月、日本女子サッカーリーグ理事長。
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