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2021.2.26

千客万来 鈴木愛-見えない力がある

<Photo:Atsushi Tomura/Getty images>

 人知を超えた、見えない力が勝負の世界では、大きく流れを変えることがある。プロゴルファーの場合、たとえば、ギャラリーの声援だろう。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で2020-21年までシーズンが統合。今年は3月4日に開幕のダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメントでJLPGAツアーが再開する。何よりもうれしいのは、1年3カ月ぶりの有観客でトーナメントが開催されることだろう。

 プロにとってギャラリーの存在は特別だ。2シーズン連続の賞金女王を目指す鈴木愛の場合はどうか。「ナイスショットの声がかかると、とてもうれしい。また、頑張って、と声をかけてくださることで、ヤル気がでるのはもちろん、すごくうれしくなります。ギャラリーの皆さんは、実力以上の力を引き出してくださる、かけがえのない存在だと思っていますよ。だから、ダイキンオーキッドはすごく楽しみになってきた」とボルテージが上がる。

 オフの調整は、コロナ禍で手探りの状況だった、昨年とは比較にならないほど順調にきている様子。単独での調整も自身が決めたことだ。「去年まで、アリゾナでやってきたことを参考にして、自宅から通えるコースなどで毎日、いい練習ができた。寒かったけど、それは覚悟の上。体調をくずさないように心がけ、ひとりでしっかりとやれたと思います」と満足そうな口調で語っている。

 クラブなどのセッティングは、昨シーズンとほとんど変わりがない。もっとも神経を配ったのは、新しいボールとのマッチング。「データをとり、たくさん打ちこんだ。感触がいいし、これなら大丈夫でしょう」という。それだけに、有観客でプレーできることが楽しみで仕方がない。「ギャラリーの皆さんがいないと、ヘンな表現かもしれないけど、つまらないんです。去年の序盤はコロナでコースの内でも外でも、とにかく緊張しっぱなしでした。それが、慣れというわけではないけど、試合を重ね、だんだん気持ちが落ち着いてくると、第1日のスタートホールなどで、ドキドキすることがそれほどなくなってきましたね。私の場合、これは良くない。緊張感があったほうがいいんです」。

 さらに続けた。「いいショット、いいパッティングをしたら、やはり拍手や歓声をいただけたら本当にうれしいです。ただ、ゴルフはいいことばかりではない。ミスもする。コースにいるときは、いいことも悪いことも聞こえてくる。もし、悪いことでも、よし次は見返す、という感じでプレーをします。そうでなければ、優勝なんてできません」と話した。プロフェッショナルの矜持である。

 一方で、感情の起伏を最小限にとどめ、精密機械のようにプレーすることも選手には求められる。ただし、十人十色で受け止め方も違う。2015年、プレースタイルを変えたことはほとんど知られていない。「1カ月ぐらい、プレー中にまったく感情が出ないようにやってみた。まったくダメでしたね。バーディーがない。ボギーもない。パーが続くばかり。毎ラウンド、スコアはイーブンパーのあたりです。予選は通っても本当におもしろくなかった。モチベーションが逆になくなって…。試合で優勝を狙うのはプロなら当然だと思います。たとえ、予選落ちしてもやっている立場、見ている立場でもおもしろいほうがいいでしょう」と訴えるような表情だ。

 ということで、「プレーに対して、正直でいるようにした。あまり我慢をするのは私には合いません。ミスをしたら、自分自身を叱り飛ばして、イライラを吐きだす。そうすることで次に引きずることがなくなりました。あぁ、これが私のスタイルなんだなぁと紆余曲折しながら考えました。ミスをしたら繰り返さないようにしっかり記憶します。そういったことが私の財産。メンタルの強化方法だと思います」。

 ギャラリーへの感謝、スポンサーへの感謝をインタビュー中、鈴木愛は何度も何度も言葉にした。どんなスーパープレーが飛び出すか。21年、欠けていたピースが埋まった。

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