2022.8.23
ツアー強化10年《72ホールの意義》
菊地絵理香<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>
8月のラストウィーク。サマーシリーズの掉尾を飾る『ニトリレディスゴルフトーナメント』は必見だ。技術の限りをつくし、脳をフル回転させ、各選手が小樽カントリー倶楽部へ挑む4日間である。
2013年、当協会では「世界に勝つ」を目標にトーナメント事業部が重点テーマとして「ツアー強化」をスタートさせた。4日間競技の増加。練習場環境の基準化。コースセッティングの多様化。スタッツ30項目。ステップ・アップ・ツアー改革など、さまざまな施策がはじまった。中でも、世界メジャー大会での上位入賞を見据え、大きな柱に位置付けたのは4日間競技を増やすことだ。20年までに年間試合数の半数を目標に掲げた。11年=5試合。13年=10試合。今年は19試合へ増加した。
今大会も16年から4日間競技になった。「3日間と4日間。わずか1日の違いだけど、これが大きい。世界のメジャーはすべて4日間、米ツアーはほとんどが72ホールの戦いです。選手はまず体力強化をしなければなりません。自ずと体力があれば、ショットの威力が増す。さらに、集中力の持続性や粘りなど、これまで以上に各選手の力が増してきたと実感しています」と、JLPGA会長・小林浩美は話す。
今季、大東建託・いい部屋ネットレディスで北海道出身として、史上2人目の地元優勝を果たした菊地絵理香は、「あれほど地元の皆さんが喜んでくださるとは予想外。本当にうれしい」と前置きし、72ホールの勝負について、「技術、体力ともにつく。それから、いろいろと頭をつかいます。力がなければ絶対に勝てない。選手はとてもしんどいけど、その分、賞金がアップするわけです。さらに、体力がなければ、体力をつければいい。4日間大会のメリットは計り知れません」と力説した。
さらに、小林は自身の経験を踏まえ、「18ホール毎の組み立てと4日間全体を俯瞰した戦略というのが鍛えられる」と語っている。3日間競技では、スタートが午前中に集中するため、ハーフターンで、選手は待ち時間が発生。4日間競技では出場人数が増やせるので、予選ラウンドの2日間は午前、午後スタートという2部制になる。スルーでプレーできる分、コース戦略の組み立て方が9ホールで切れずに、18ホールの俯瞰で考えられる」。
また、当然のことだが、午前か午後かのスタート時間によって、寝起きする時間をはじめ1日の時間の使い方に変化が起こり、生活のリズムが大きく変わる。3日間競技では全員が午前中にスタートするので、生活の時間割が大きく変化しない。
しかし、4日間競技は違う。午後スタートの時に、午前中の時間をどう過ごすのか、大きな課題となる。経験が足りないと、時間を持て余し、どう使ったらいいのか迷ってしまう。選手は常に力を発揮できる状況をつくらなければならない。日本はもちろん慣れない海外試合でも力を発揮するにはどうしたらいいか。
「以前のツアーは4日間大会が少なかった。慣れない海外で、慣れない4日間競技。誰しも急に生活リズムまで変わるとなかなか実力発揮とはいかなかった。4日間大会の試合数が増えて、日本でも同じ環境になれば海外に行っても日常に近い。とても大事です。主催者さまのご理解とご支援があって実現できています。おかげさまで現在では、日本ツアーの競争力が増し、世界の舞台でも選手は自身の力を大いに発揮しています」と続けた。
小祝さくら<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>
ニトリ所属で今大会、ホステスVを目指す小祝さくらは5月の4日間大会、リゾートトラストレディスで優勝。翌週の全米女子オープンへ、あえて強行軍を選択した。結果は日本勢トップの20位タイに健闘。「15位以内が目標でした。それだけにちょっと悔しい。でも、世界の大会へもっと挑戦したくなった。興味が出てきましたよ」と言葉が弾む。
地元の北海道効果も見逃せない。22年、北海道では今回を含め、4大会を開催した。コースは米国同様の洋芝である。「洋芝はプラスアルファの技術力が必要となってきます。より精度の高いショットや粘るラフからの打ち方。また、ロブショットなどのアプローチの技も増やさなければなりません。日本で主流の高麗芝は米国ではわずかです。各選手が北海道で得るものは計り知れない。緊張する試合で学ぶことはたくさんあります。これも、大きなツアー強化です」(JLPGA会長・小林浩美)
昨年の今大会は、稲見萌寧が最終日、ノーボギーの通算16アンダーで逆転優勝を飾った。シーズン7勝。不動裕理、イボミ、鈴木愛に続いた。共通するのは、前記の3人はすべて賞金女王のタイトルを獲得している。ただし、稲見はこの時点で賞金ランク2位だった。が、シーズン終盤で猛チャージをみせ、大激戦の末、タイトルを手中にしている。
東京五輪で銀メダル獲得後の初勝利だった。その五輪では4日目の最終日、17番で金メダルのネリー・コルダと並んだが、1打差及ばず惜敗。「稲見さんは、コルダさんが大きくスコアを伸ばしても、日常のJLPGAツアーそのままに爆発力を発揮してバーディーで追い上げ、それも淡々とプレーしていた。大舞台でも、特別なことはしていない。自身の力を大いに世界に示したと感じます」(同)
ツアー強化は今年で10年目を迎える。これからも多くの関係者の協力を得ながら日々、年々-進む。ツアー屈指の難コース、小樽カントリー倶楽部へ挑む選手の表情が輝いている。
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