2023.1.31
プラスワン2023~菅沼 菜々
<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>
唯一無二。不思議な魅力を漂わせる。多くのファンが今季、JLPGAツアー初優勝へ最も近い存在と口にした。加えて、今年は新たにJLPGAブライトナーという大役も担う。
「去年、オフのトレーニングスタイルが私には、とても合っていた。今年も伊豆で4泊5日の合宿を3回、行ってしっかり調整していきましょう。やることは多いです。でも、コース内のコテージを提供していただけますから、朝から夜までひたすらゴルフ。これって、幸せなことですね」。
親交がある元巨人・篠塚和典氏が理事長をつとめるフジ天城ゴルフ倶楽部は抜群の環境に恵まれている。「27ホールの中の9ホールを自由に使用させてくださって、ありがたい限りです。特に今年、もっとショットの精度をあげていきたい。1ヤード刻みで。今まで5ヤードはいけたけど、それでは優勝へ手が届かない。5~7Iまでは5ヤードでよくても、8I以下を1ヤード刻みで狙えるように力を入れています」と説明した。
<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>
22年は躍進のシーズン。20-21年、メルセデス・ポイントランキング45位で初シードを獲得し、昨季は一気に同8位までランキングをあげている。トップ10が15回。トップ5も8回と抜群の安定性が特性のひとつになった。ただし、ばく然と練習を重ねたわけではない。
「20-21年シーズン、ファイナルラウンドの平均スコアが73.1471。69位と、ランキングでした。いろいろな方から最終日、いつも成績がふるわないよねぇ-と指摘を受け、去年のオフからランニング量を多めに変えたことが大きい。最終日までの体力維持にもつとめた。おかげさまで22年、ファイナルラウンド平均スコアが1位。奇跡的です。しかも69.7762と60台をキープできたことがうれしかった。このあたりがプロになったんだなぁ-と感じるところかなぁ」
もうひとつ、スタッツで目を引くことがある。3パット率1位の1.9252。要は、JLPGAツアーの選手で最も3パットを打たない証明。これまた、胸を張れるデータではないか。23年シーズンのスタートまで、約1カ月。さらなる進化を目指して、調整に熱が入る日々だ。
<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>
しかし、残念なことがある。3月の開幕戦といえばズラリとシード選手が揃い、特別な雰囲気を醸し出すもの。ところが昨年同様、現状では沖縄、北海道の試合を見送ることが有力だ。
「病気?改善していません。悪くなってもいないし、良くなってもいません。今のところは、(沖縄へ)いける感じではないかなぁ。日常生活はうまく送れる。私生活にも支障がありませんけどね」。
広場恐怖症という持病がある。航空機、鉄道、船舶の移動が難しい。唯一の手段は父と一緒に車で移動が可能な地域に限定されている。「高校2年で病気が発症して、プロ1年目はずいぶん症状が緩和し、新幹線の移動なら可能になった。でも、いろいろなストレスがかかる影響でしょうか、またダメに…」。
健常者には、とても想像がつかないことだろう。事実、普段はつとめて明るく、笑顔がトレードマーク。これも、病気とは無関係ではないらしい。持病克服のためだ。
「同じ病気の方がたくさんいらっしゃる、とうかがいます。プロゴルファーでは、聞いたことがありませんけどね。克服するしか手がありません。22年、上位の成績が多かったから、元気づけられた-など、たくさん励ましのメッセージを頂戴しました。テレビ中継で解説者の方や、メディアの皆さんがとりあげてくださったおかげだと思います。そうした報道から、ファンの皆さんから激励していただける。本当にうれしいことです。もっと成績をあげたい、と前向きでいられるエネルギーになりました。私はプロゴルファーとして皆さんへプレーをする姿を見ていただき、もっと元気で頑張りましょうというサインをお返ししたい」。ブライトナー就任の心意気が見え隠れした。感動と勇気を届けることはアスリートの使命だ。
<Photo:Yoshimasa Nakano/Getty Images>
一方、プライベートでは意外な趣味がある。「家の間取りを拝見することが大好きです。かといって、私が家を建てるなど、そういった願望はありません。住宅展示場へ足を運んで見学することが癒しかなぁ。リビングに階段があって、屋上でバーベキューできるようなスペースがあれば、すごくいい。地下室のある家もすてきです。ただ、もしも私が家を建てるとするなら、やはり和風がいいです。想像をめぐらしながらただ、見ていることが好き」と、うれしそうに語っている。
去年も前髪、リボンのこだわりのエピソードをうかがった時も身を乗り出してしまったが、今回もサプライズの用意があった。聞き手も楽しくなり、会話が弾む。ますます好感度アップの要因である。
家の間取りを見ながら想像をめぐらすことは、コース攻略にも大いに役立ちそうだ。本業では、得意クラブをパターと記している。「ゴルフをはじめた時からパターが好きだった。だけど、ストロークではない。グリーンの読み方が得意。芝目、傾斜の見え方でプレーしている。感覚というのか、感性で勝負です」には説得力があった。
<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>
さらに、伝家の宝刀といえるクラブがある。56度のウェッジだ。一本で、フェース角度を自在に変化させる、独特のテクニック。「今まで、アプローチは56度だけを使ってきた。しかし、重いグリーン、二段グリーンになると時おり、イメージが出ないことがあった。今季は52度、48度も選択肢へ入れます。バリェーションが増えれば、それはそれでいいことでしょう」と解説した。
ちなみに、無人島へ行く際、クラブを1本-持っていくとするなら、少しの間、考えて、「スマートフォンですね。クラブは持っていきませんよ」と、一笑に付してしまう。矢継ぎ早に、2000年生まれで得をしたことは-。「年齢を数えやすい」と即答している。
この機転の利き具合。最悪を想定しながら、最善をつくすことができるプロフェッショナルの極意。目に映らない名手の百味箪笥は、こうして完成していくものだ。
(青木 政司)
<Photo:Yoshimasa Nakano/Getty Images>
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