春を待つ94期生～櫻井 心那

＜Photo：Atsushi Tomura/Getty Images＞

　コロナ禍の難しい調整を克服。2023年、プロ2年目のスタートを切る。21年11月、29.2倍という、狭き門を潜り抜けた94期生は逸材揃い－との評判が高い。

　さくらい・ここな＝2004年2月13日、長崎県長崎市出身

　こいつは春から縁起がいいわぇ－歌舞伎・三人吉三巴白波の名セリフが思い浮かぶ。プロ2年目、年が明けるとさっそうと腕試しである。台湾ツアーへ挑戦し、開幕戦の日立レディースクラシックで今季初優勝を飾る。これまでの1試合最高金額の約1,080万円を獲得した。

　2年目のジンクスを一蹴した23年のスタート。待っているのではなく、自ら乗り出していくスタイルが、何ともたくましい。たくさんの夢と目標がある今シーズン。最大のターゲットは、地元・長崎で開催の女子プロアジアナンバーワンを決定する、日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯（パサージュ琴海アイランドゴルフクラブ）だ。

　「すでに、女子プロ選手権で優勝する計画を立ててしまった」と前置きし、「ツアー前半戦から頑張ります。優勝できる気がしてきた。勝つイメージもわいてきて…。ただ、それまでにたくさん、たくさん練習をします」と日々、実践の毎日を送る。

＜Photo：Yoshimasa Nakano/Getty Images＞

　ルーキーシーズンはステップ・アップ・ツアーで精進を重ねた。史上初の4連勝を含む、年間5勝をあげ、史上最年少で賞金ランキング1位など、レコードラッシュ。長崎県出身として7人目の最終プロテスト合格を果たし、98年以来25年ぶりのツアープロ誕生は、地元で一大ブームとなっている。

　「長崎は、ゴルフと無縁のように思われがちだけど、環境はすごくいい。コースが10以上もあって、私はジュニアの頃から練習をさせていただきました。でも、ゴルフ人口は少ない。同じ九州でも福岡、熊本とは違い、地元で開催される試合が不定期だからかもしれない。だから、ファンの人口がそれほど増えることがありません。ぜひ、今年はきっかけをつくりたい」。大仕事が待っている。

　では、ジュニア育成はどうなのか。「大会はあるけど、選手が少ない。私たちは3学年一緒のカテゴリー。でも、出場者が3人程度で、出場すればみんなが入賞でした」と笑っていた。

　一方で22年は、良いことばかりのシーズンではなかったらしい。とりわけ、JLPGAツアーのレベルの高さを痛感したことが脳裏を過る。「ショックを受けたのは、NOBUTA GROUPマスターズGCレディスでした。ステップ優勝の後で調子も悪くはない。ただ、めちゃくちゃな成績で自信喪失。やっぱりJLPGAツアーでは通用しないと、プレー中にどんどん自信がなくなって…。ただ、予選落ちの後、冷静になって振り返ると、すべて安全第一のプレーでした。私は攻撃を持ち味にしているにもかかわらず、気持ちまで負けていたことに気がついた。それだけに、次の大王製紙エリエールレディスオープンでは、ひたすら1Wを思い切り振って。結果は19位タイだったけど、いつものようにプレーができました」と振り返る。

　そんな話を聞いていると、素質だけではない。忍耐力が備わっていることがわかった。「同期が活躍していたことは、すごく励みになりましたよ。うれしかったと同時に、さみしさもあったけど…。他の人は推薦出場でJLPGAツアー挑戦のチャンスを得て、リランキングなどで、私は推薦をいただける伝手などありません。だんだん、ステップへ出場する同期の人数が少なくなってしまった。皆さんから優勝のたびに、すごい－と励ましてくださったけど、私はステップで頑張るしかなかったわけですよ」。

＜Photo：Toru Hanai/Getty Images＞

　今オフ、技術面で力を入れているのはショートゲームだ。「ボールをあげるアプローチが苦手。それからバンカーショットも、です。ツアーで初優勝するための課題。目標はたくさんあっても、言い出せば切りがありません。トッププロの仲間入りを果たすことも、まず1勝がスタートです」と、背伸びをしすぎないことを飛躍の原動力とした。

　次週、13日は誕生日。よく考えてみると、成人とはいえ、まだ18歳だった。かの物理学者、アルベルト・アインシュタインは、「常識とは18歳までに偏見のコレクションでしかない」と名言を残している。もうひとつ、「失敗をしたことのない人間は、挑戦をしたことがない人間である」とも述べた。勝負の23年。19歳の誕生日におくりたい言葉だ。