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2019.8.25

1万時間の凝縮 淺井咲希、黄金の2メートル

<Photo:Masterpress/Getty Images>

 LPGAツアー25戦『CAT Ladies 2019』(賞金総額6,000万円、優勝賞金1,080万円)大会最終日が8月25日、神奈川県箱根町・大箱根カントリークラブ(6,704ヤード/パー73)で行われ、淺井咲希がLPGAツアー初優勝。通算10アンダーで第1日から首位を守る、完全Vで飾った。黄金世代の初優勝は今季5人目。通算9人目となった。2位に通算9アンダーの穴井詩が入り、通算8アンダー、3位はイボミ。(天候:晴れのち曇り 気温:23.7℃ 風速:1.9m/s)

 勝負はドラマの連続。黄金世代は既成の枠には収まらないパワーを秘めている。淺井咲希のLPGAツアー初優勝は、漫画のような決着だった。何しろ、50センチを外して、2メートルをカップインさせてしまうのだから。

 18番、誰もが決まり-と思った50センチのパーパットは、カップを2メートルもオーバーしてしまった。信じられないシーンに、どよめきが起こる。「もう、負けたなぁと思いました。私の感覚でいうと、このままホールアウトできるのかなぁ。緊張してストロークの瞬間、パンチが入り、かなり強かった」と話した。

 続く、ボギーパット。それでも、まだアドバンテージを握っていた。天を少し見上げると、さまざまなシーンが脳裏に浮かぶ。「朝から、まったく緊張しなかった。自分で大丈夫なのだろうか、と感じたぐらいです。プレー中もいろいろなことが、うまくいった。ただ、そう簡単に優勝はできないだろうと、18番では思っていたのです。だから、バーディーパットを寄せて、安全にというか…」。なまなましい葛藤を明かす。

 そして、ちょっとの間をおいて、「あれ(パーパット)を外した瞬間、もう負けたと思ったから、今まで悩んでやってきたことを、ボギーパットに込めてストロークしたから、その勢いで泣いちゃった」。見事なウイニングパットは、おそらく視界が曇り、はっきりと自身の目には映らなかったに違いない。

 困難な状況からはい上がる。これまた、漫画のような体験を話した。昭和のスポ根物語が、淺井家では行われていたのだ。「1万時間やればプロになれる」。父・靖宏さんの教えだ。「ずっと言われた。小さい時からです。形ができるまで、がむしゃらに練習しろという考え。自分でいうのもおかしいけど、1万時間は、余裕で越えている。練習だけではない。1カ月ごとの課題シートを渡され、シートに毎日書かされました」という。

 もちろん、メキメキと上達し、高校2年までは順風満帆。しかし、予期せぬカベにぶち当たる。「団体戦で1メートルのパッティングが、カップで1回転して、私の足に当たりそうになった。それからです。パッティングのスランプで、試合の予選を通らなくなったのは。中学から高校2年まで、予選落ちはない。もうダメだ。ゴルフはやめようと思ったのは」。

 当然のように、卒業後のプロテストは断念するつもりでいたものの、「父が1回は(テスト)受験してほしいといわれました。だから、プロテストは最初で最後のチャレンジ。とにかく、悔いを残さない。どうせなら精いっぱい、練習をして受験しようと頑張った」ことが、一発合格をもたらす。

 人生はわからない。だから、おもしろいのだ。黄金世代9人目のLPGAツアー優勝を飾る。この日のスタート前、渋野日向子から、「最終日、頑張れよ」の激励があったそうだ。

 「シブコもQTで苦戦して、ツアー出場を勝ち取った。あのすごさは異次元だから、同じようには感じていないけど、私も流れと勢いで上がっていこう」。記憶に残る初優勝は、ここ一番を切り抜けてきた、強い精神力がもたらした。

(メディア管理部・森谷 清)

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