パワーゴルフ時代に一石を投じた青木瀬令奈の逆転V

＜Photo：Atsushi Tomura/Getty Images＞

　JLPGAツアー2023シーズン第37戦『第42回大王製紙エリエールレディスオープン』（賞金総額1億円/優勝賞金1,800万円）大会最終日が11月19日、愛媛県松山市・エリエールゴルフクラブ松山（6,575ヤード/パー71）で行われ、2位でスタートした青木瀬令奈が67で回り、通算13アンダーで今季2勝目、ツアー通算5勝目を飾った。通算12アンダー、2位は前週優勝した西郷真央。
（天候：曇り　気温：14.8℃　風速：5.0m/s）
《グリーン＝スティンプ：11 2/3フィート　コンパクション：22.5mm》

　最終18番・パー4、左ラフからピン右手前約12メートルに乗せた青木瀬令奈。すでにホールアウトしている2位の西郷真央とは1打差ある。2パットのパーなら優勝だが、容易に1パット圏内まで寄せることができるラインではなかった。「フックしてのスライスラインですが、上りなのにカップを過ぎてから意外と伸びるんですよね」。ラッキーだったのは、昨年、優勝争いをしていた藤田さいきを応援しに18番グリーン脇で数組のプレーを観ていたことだった。

「ピン左下からのパッティングのほうがカップをオーバーしやすいなとは思いました。なので、ピンは狙わず、最初から右手前を打ったんです」。何が幸いするか分からないが、この事前情報があったからこそ、絶妙なタッチを見せ、1メートル弱のオーバーで済んだといえる。

　ウイニングパットを打つ前に水筒の水を口に含み、天を仰ぎながら目をつぶっていた青木。「簡単には勝たせてくれないんだな、このコースは･･･」と思いながら、自分の順番を待った。短い距離だからといって油断はせず、カップの反対側からなど何度もラインを確認する。今季は1ラウンドあたりの平均パット数第1位をキープしているが、そういった積み重ねがあるからこその結果だろう。大勢のギャラリーが見守る中、パーパットを沈めた青木。大きな目標だった自身初のシーズン2勝を達成した。

　青木のパッティングに賭ける思いは果てしなく強い。開幕してからしばらくの間は毎週異なるパターを使っていた。グリーンや体調、そのときのストロークの傾向に合わせるが、目的はシンプルにストロークすることだった。「自分の感覚を変えずに、パターを替えて打ってみようというのがテーマでした」。試合を経るにつれ、パターに対する知識も増え、湿度や芝の状態など細かいところにまで気を配り、ベストな1本を選ぶようになった。プレッシャーがかかる状況では、不安材料が少ないほど本来の力を発揮できる。パターへの不安がない分、ラインの読みに集中できたことも確かであり、スムーズなストロークにもつながった。

＜Photo：Atsushi Tomura/Getty Images＞

　また、パッティングだけが青木の武器ではない。ドライビングディスタンス（224.21ヤード）が90位ながらも、フェアウェイキープ率（75.9398パーセント）では5位につけ、パーオン率（62.8389パーセント）が82位ながらも、リカバリー率（69.8140パーセント）とサンドセーブ率（58.0000パーセント）では2位につけている。飛距離が出なければ曲げなければいい、グリーンに届かなければ、アプローチを寄せればいい。パワーゴルフ時代に一石を投じる意味でも、青木のゴルフは見応えがある。この日も1、2番の連続バーディーはそれぞれ6U、9Wを使って、4メートル、3メートルに乗せて奪ったものだ。また、多くの選手が2オンに成功した17番・パー5でも、第2打を刻み、ピンまで57ヤード地点から58度で打ち、ピン左下1メートルにつけた。それを沈めて、首位タイで並んでいた西郷を1打リードした。

「将来的には年齢に関係なく、行ける機会があれば、積極的に海外の試合にも挑戦してみたいと思います」。青木のゴルフがどこまで海外で通用するのか、ぜひ観戦したいものだ。

（JLPGAオフィシャルライター・山西 英希）

＜Photo：Atsushi Tomura/Getty Images＞