山下美夢有POを制す　記録ずくめの年間女王

＜Photo：Yoshimasa Nakano/Getty Images＞

　JLPGAツアー2022シーズン最終戦『JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ』（賞金総額1億2000万円、優勝賞金3000万円）大会最終日が11月27日、宮崎県宮崎市・宮崎カントリークラブ（6487ヤード/パー72）で行われ、山下美夢有が大接戦を制した。勝負は通算15アンダーで並んだ、勝みなみとのプレーオフへ。PO1ホール目でバーディーを奪い、今季5勝目を飾った。年間女王のタイトルを筆頭に、日本人選手初の年間平均ストローク60台、年間獲得賞金史上最高額も更新。プロ3年目で驚異の進化をアピールした。3位は菊地絵理香。渋野日向子が66をマークし、10位タイへ食い込んだ。
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　見事な結末が待っていた。深紅の女王は、バーディーで今季を締めくくる。山下美夢有は、「プレーオフ(PO)を経験することは初めて。かなり緊張した」という。

　通算15アンダーで並んだ勝みなみとのPO。4日間トータル、難度2位の18番へ、今大会5度目のチャレンジである。本選ではパー3、ボギー1。PO1ホール目、全身全霊でティーイングエリアへ立った。「ボールが左へ行くと、木に当たって林へ入る。右は深いラフ。どんなことがあっても、フェアウェイをキープしたい」。

＜Photo：Yoshimasa Nakano/Getty Images＞

　集中力が高まる。この1打に賭けた。そして、見事にフェアウェイをとらえる。残り167ヤードの第2打は、6Iを選択。2度目の18番はさらにターゲットを絞りやすくなっていたことに気がつく。

　「ピン奥へボールをつけると、パーパットで上りになる。気持ちでは守りに入らない。でも、難しいこのホールは、パーセーブを第一のマネジメントを崩さなかった」と、心中を明かしている。

　再び、全集中。ボールはピン奥8メートルへ止まった。ラインを読みながら、「最終ホールと、ほぼ同じライン。フックの下りです。ちょっと深めに読んだけど、とりあえずボールを寄せて−。簡単ではなかった。それがカップへ入った」と、振り返った。そのシーンを見届け、今年一番のガッツポーズが自然に飛び出す。極限の精神力で生み出したスーパープレーである。

　最も、近くで見ていたPOで対戦した勝みなみが、拍手をおくった。「戦った私が感動するぐらい、すごいパッティングでした。あのプッシャーの中で、一発で決める。できませんよ」と、目を丸くしたほどだ。

＜Photo：Toru Hanai/Getty Images＞

　ただ優勝するだけが目標ではなかった。さまざまな記録更新が、この一戦にかかっていたから。首位で迎えた最終組のプレッシャーまで加わったが、重圧に押しつぶされるようなことはなかった。前半は前日同様、思うようにバーディーがとれない。

　そんな状況でも、集中力が途切れることはなかった。毎ショット前、リズムが一定か－を確認。最高のプレーを演出する基本を忘れなかった。「スイングが速くならないように、間をつくる。もっとも注意したのは下半身。上半身ではなく、下半身で間をとった」。苦しみながらも70でまとめた。

　金字塔は年間平均ストロークだろう。69.9714だった。これまで、日本人選手が挑戦しながら60台はひとりもなし。プロ3年目の急成長に驚かされた。ミヤギテレビ杯第1日には60をマークし、18ホールの最少ストロークを更新。計測システムを駆使しながら毎試合、各日のデータ収集を続けた。己を解析することで、安定感と爆発力を養うニュースタイルを構築。もうひとつ、年間獲得賞金が2億3502万967円と跳ね上がった。15年、イボミの過去最高を上回り、最高のシーズンといえよう。

　「終わりました。はぁ…」。安どのため息がこぼれた。続けて、「一年間、楽しかったです。いろいろと勉強することばかりで。とにかく、1試合の積み重ねです。その結果がこうして5勝。皆さんへ心から感謝いたします。目標を立てたことがすべてクリアできた。初心を忘れない。これまで通りに来年もやります」と、自身の心へ刻みながら、さらなる高みを目指す。

＜Photo：Toru Hanai/Getty Images＞

　余談だが、優勝者の偉業を永遠にたたえるため、モニュメントを制作。最終日、最後の仕事は手形を取ることだった。その際に、「グローブは18センチ。爪も小さい。身長も低い。すべて小さいなぁ」と漏らしたことが印象的。

　ズバ抜けた資質があることは当然だが、体形のハンディを補ったのは、類まれな日々の努力だった。「ジュニアが目標にしてくださるような選手になりたい」のひと言が究極の目標である。

＜Photo：Yoshimasa Nakano/Getty Images＞